発達障害のある社会人は、いま確実に増えています。厚生労働省の2023年度調査では、企業で働く発達障害のある方は推計9.1万人。5年前と比べて2倍以上に増加しています。
社会の理解が進み、診断や開示を経て働く方が増えている一方で、「働き続けることの難しさ」に直面している方も少なくありません。
全国の「発達障害者支援センター」には、当事者やご家族から多くの相談が寄せられています。東京都では2023年、大人専門の「おとなTOSCA(トスカ)」が立ち上がり、診断の有無を問わず年間約2000人の電話相談に対応しています。その約7割が「働くこと」に関する悩みだといいます。
「働いている=問題ない」ではない
統計上、発達障害のある方の就労人口は増えている、という結果を耳にしてどのように感じたしょうか。
「社会参画者が増えているのは良いことだ」と歓迎する気持ちと同時に、「生きづらさを感じる人も増えるのではないか」と思うフシはないでしょうか。
発達障害のある社会人が増加している現状は、社会構造そのものの変化を映し出している現象です。医療インフラの進歩や社会的理解の広がりによって、従来は潜在的な位置づけだったものが可視化された統計上の数字の裏にさまざまな現実があります。
職場環境と発達特性が衝突してしまうのは、ある種、必然だといえます。もし今、職場でうまくいかない感覚を抱えているのなら、それは、あなたの努力や能力の問題ではなく環境との相性の問題であることが多いと思われます。
特性が活かされないジレンマ
効率性や即応性、同時処理能力、対人調整力が当然のように求められる環境において、認知や情報処理に偏りのある人が困難を抱えるのは、個人の努力不足ではなく構造的な問題であると理解する必要があります。学生時代は何とかやれていたのに、働き始めた途端に難しさが一気に押し寄せてきた、という方は少なくありません。
曖昧な指示に戸惑い、優先順位がつけられず、急な変更に頭が真っ白になる。周囲は普通にこなしているように見えるのに、自分だけが取り残されているように感じる。そのたびに、「自分は社会に向いていないのではないか」と胸が締めつけられるかもしれません。
毎日強い緊張状態で限界ぎりぎりの状態、帰宅後は何もできないほど疲弊しているなど、「働いているから大丈夫」とは言い切れません。
就労する上でぶつかりやすい“壁”とは
発達障害の特性は人それぞれですが、職場という環境では共通して壁になりやすいものがあります。
職場は想像以上に「曖昧さ」でできています。しかし、具体性を重視する特性があると、何をどこまで求められているのか分からず動けなくなってしまい、結果として「指示待ち」「主体性がない」と誤解されてしまうのが大きな負荷になります。
マルチタスクが求められる環境では、情報処理が追いつかず、強いストレスを感じることも多いでしょう。焦りからミスが増え、さらに自信を失う。そんな悪循環に陥る方も少なくありません。常に多くの情報を必死に処理していることで疲弊するでしょう。
職場は「仕事をする場所」であると同時に、「人間関係の場」でもあります。悪気はないのに誤解される。雑談が苦痛。場の空気を読むことに神経をすり減らす。この見えない負担が実は一番大きいという声も多く聞きます。
職場で上手くいかない理由
極端な例え話になりますが、「職場で重宝されるのは、スキルを積上げて仕事がこなせるタイプの社員より、人付き合いが良く上司に可愛がられるタイプの社員の方」と言われるのも一方の事実です。
発達特性は「できないことの集まり」ではありません。特定の条件下では、高い集中力や独自の視点、丁寧さや粘り強さとして発揮されることもあります。適した環境では、驚くほど力を発揮する方もたくさんいます。ただ、その力が活きる環境に出会えていないだけかもしれません。
無理を重ねている方ほど、叱責や評価低下を繰り返される悪循環に陥りやすく、自己肯定感が大きく傷ついてしまう。やがて抑うつ状態や不安障害を併発し、休職や退職に至るケースも少なくありません。
就労を継続するために
職場でどんなときに混乱するのか、どんな配慮があればクリアできそうなのかを会社側へ伝えて、現実的な落としどころを一緒に考えてもらえれば理想です。この調整は特別扱いではなく合理的な配慮であり、あなたが甘えているわけではありません。
そうはいっても伝えることができず、伝えられたとしても配慮が得られないことも、よく耳にする話です。帰宅後に何もできなくなるほど消耗しているなら、それはあなたが弱いからではなく毎日全力で戦っている証拠です。働き続けるために大切なのは、自分の特性を責めるのではなく理解することです。
どうしても限界を感じるときは、無理せずに休むことも必要です。心身が壊れてしまってからでは回復に時間がかかります。制度は、困っている人のために存在しています。発達障害のある方は、真面目で責任感が強い方が多い印象で、「迷惑をかけたくない」「これ以上配慮を求めたら嫌われるかもしれない」と考えてしまう傾向がありますが、無理を重ねて突然動けなくなるほうが、結果的に周囲にも大きな影響を与えてしまいます。
環境を選ぶ大切さ
自分の状態を早めに伝え、必要な支援を求めることは、あなた自身を守るだけでなく、組織にとっても健全なことなのです。一般雇用で限界を感じている場合、障害者雇用という選択肢もあります。大切なのは、「根性で乗り切ること」ではなく、「合う形を探すこと」です。
合わない環境で能力を発揮できないのは、誰にでも起こり得ることです。発達障害の特性がある場合、その“合う・合わない”の幅が大きいだけなのです。働くことは、人生の大きな部分を占めます。
あなたが無理なく続けられる働き方は、必ずあります。無理なく続けられる働き方見つかれば、安定就労につながる可能性が高まるでしょう。



